「日本語教員の資格を取得したいが、現在海外にいるため、海外で文化庁認定(届出受理)の420時間の日本語教師養成講座を取得できるところを探しています。」といったような質問をネット上でよく見かけます。
結論から先に書くと、「海外で文化庁認定(届出受理)の420時間の日本語教師養成講座」は修得できません。理由は主に以下の2点です。
- 日本国内の制度である
- 海外では講座の運営と継続は困難
以下、順番に解説します。
1.日本国内の制度である
そもそも、その「文化庁認定(届出受理)の420時間の日本語教師養成講座」というのは、日本国内の制度です。ですので、「海外で」という発想がからして、根本の部分から制度を理解していないと言えます。
例: 例えて言うなら、「日本の小中高校の学校教員免許を海外で取得したい」と言っているのと同じことです。いわゆる「日本語教師の国家資格」と世間で言われている「登録日本語教員」というのは、その名前の通り、特定の機関での「教員」(※教師ではない)として、「登録」するための資格です。
さらには、中学・高校にて教員として英語を教えるには中高の教員免許が必要ですが、それ以外で英語を教えるには、中高の教員免許は必ずしも必要ない、むしろ日本で英語や英会話を教えている人は、日本の教員免許を持っていない人が多い、という点も同じです。
つまり、必ずしも国家資格を取らなくても、日本国内で日本語教師はできる、ということです。一部の機関で働く場合のみ、「登録日本語教員」の国家資格が必要である、というだけです。
特定の機関というのは、「日本国内において法務省が外国人に日本国のビザを発給する必要がある機関」のことで、法務省告示の日本語教育機関(法務省告示機関)と呼ばれるところです。日本国内において、いわゆる「日本語学校」と呼ばれているところが、一般的にはそれに該当します。
その特定の機関(法務省告示機関)で日本語を教える「教員」として「登録」するための資格が「登録日本語教員」なので、制度の性質からして海外でのその資格を取得したいというのは、根本的に話がズレていることが分かるでしょう。
日本国内での外国人のビザが絡む日本語学校や技能実習生に絡むことなので、管轄は法務省であり、またその資格・・・研修プログラム(いわゆる日本語教師養成講座)の管轄は文化庁であり、いずれも日本のお役所です。
※文化庁はその日本語教師養成講座を「法務省告示の日本語教育機関の教員養成のための研修プログラム」と呼称しています。
日本国内の制度であり、かつ日本のお役所ですので、基本的に海外は管轄外(治外法権)ですので、海外で日本の国家資格を取りたい、というのは見当違いということになります。
2.海外では講座の運営と継続は困難
また、万が一にも、海外で「文化庁認定(届出受理)の420時間の日本語教師養成講座」を展開しようとしても、事実上、受講は難しいでしょう。その理由は、海外では該当条件を満たす日本語教師養成講座の運営は極めて困難だからです。
困難な理由は以下の通りです。
- 海外では生徒が集まらず、講座の存続が困難
- 条件を満たす教育実習等も困難
- 文化庁の審査が困難
1.海外では生徒が集まらず、講座の存続が困難
まず海外では、通学講座を維持できるほど生徒は集まりません。対面式(通学)の講座を運営するには、1回につき生徒は10名以上20名弱、それを年3,4回は開講しないと経営は成立しないでしょう。もちろん、受講料もそれなりに必要です。
また、受講生は日本人か日本語ネイティブレベルの外国人に限定されます。日本語N1レベルでも日本語教師養成講座は難しいので、実質、受講生の対象はほぼ日本人のみ、となります。
しかし、海外の一都市で、日本語教師を志望する日本人をそれだけの数確保するのは困難です。
確かに海外で日本語教師養成講座を受講したい、という声はチラホラ聞くことはあります。しかし、そういった方々は各地に「点在」しているわけで、1ヵ所に集めるのは困難です。
例えば、日本人居住者が多いアメリカであっても、ニューヨークで講座を開くからといって、西海岸のロサンゼルス在住者の東海岸まで3ヶ月程度以上も通学させるのは現実的ではありません。オーストラリアについても同じことが言えます。
※文化庁の基準を満たすには、例え座学をオンラインにしたとしても、義務付けられている対面での実習に最低でも3ヶ月は必要となります。
また、アジアにおいては、通貨の価値や物価からいって、受講料はかなり安く抑えないといけない側面もあり、日本語教師養成講座の維持は困難です。加えてアジアに居住する日本人は、(欧米圏在住者に比べ)あまりお金を持っていない傾向があり、日本語教師養成講座にたくさんお金を納める余裕はない人が多いです。
日本国内の文化庁認定(届出受理)の日本語教師養成講座であっても、この制度が始まって3年もい経たないうちに無くなったもの、休止になっているもの、開店休業状態のもの、事実上運営していないもの、運営状況がまったく不明なものが、すでに存在しています。それほど日本語教師養成講座というのは、経営(運営)が難しいのです。
2.条件を満たす教育実習等も困難
前述の通り、文化庁の基準を満たすには、例え座学をオンラインにしたとしても、義務付けられている対面での教育実習に最低でも3ヶ月は必要となります。では、その教育実習の基準を満たせる、年間を通じて、かつ複数年に渡って、学習者が安定的に確保できるのか?また実習を担当する教師の数や質を海外で維持し続けることができるのか?という問題もあります。
3.文化庁の審査が困難
そもそも文化庁というのは、日本国内のお役所です。外務省ではないので、基本、海外は治外法権です。そして前述の通り、この国家資格(登録日本語教員)は、日本国内の制度です。
ですので、海外の日本語教師養成講座を展開する学校機関などをチェックすること、チェックし続けることは極めて困難・・・というか、事実上、おこないません。
そのため、海外の日本語教師養成講座は、文化庁は審査しない(審査できない)のです。
以上の通り、理由が何重にもありますので、海外で文化庁認定(届出受理)の日本語教師養成講座は「ない」のです。(仮にできたとしてもすぐ消滅するでしょう。)